Matthew Ryder
10年前のことはよく覚えていない。自分は高校生だったと思う。なんとなく将来英語が使えるようになればいいなと思っていた。30分かかる通学電車で英単語帳をめくっていたことを思い出す。
当時から中・長期的な計画を立てるのが苦手だった気がする。受験勉強はその日その日、やる気が出た科目をちょっとやる感じだった。あまり志望順位の高くない大学に入学した。
大学生活はかなり良かった。
大学院生活もかなり良かった。でも修士論文を書いているときに、「学生生活はもう終わり」と思った。それ以上先に進むには実力も金も気合もなかった。
これからの10年について色々考えるところはある。とはいえ計画に執着しすぎる必要はないのではないか、というぼんやりとした考えも頭を漂っている。未来に囚われた瞬間、「今」が未来への過程でしか無くなってしまう気がする。
芸術は現在という時制と区別すべき「今」、ひとがそこに没入してしまう「今」を(例えばライブハウスで)生み出してしまう。自分にとっては、初めて足を踏み入れた日本橋三井ホールで見た「7doors」はそういった芸術に他ならなかった。
今の夢は今楽しいと思っていることを将来も反復することだ。ライブに行ったり、友達と散歩したり、大切な人と愛を育んだり…などなど。反復することで、深さが生まれていく気がする。「近眼のゾンビ」は聞き返すたびに、鳥肌が立ちまくる。聞き返す度に、この楽曲が与えてくれる喜びの襞がより鮮明に触知できるようになる。それはとてもいいことだと思う。