バンドー
10年前、2012年。当時はただただのんびりと学生生活を送っていた。音楽を聴くのが好きだったが、熱心に打ち込むほどやりたいことは思い浮かばなかった。工業系の学科にいたおかげで、安定はしているもののある程度決まり切った将来が見えていて、しかし特にそれを憂うこともなかった。
東京の会社に就職が決まった。アルバイトで中々仕事が覚えられなかったこともあり不安だったが、まぁ何とかなるだろうと思いながら上京。そこで自分がいかに無能であるかということを思い知らされた。
周りに全然着いていけなかった。たくさん怒られた。「お前は考えがズレてる」と言われたこともあった。ストレスのせいで、勤務時間中にトイレで吐いたりもした。
心がどんどんすり減らされていった。しかし、不思議と怒りの感情は湧かなかった。「どうせ自分はこんなもんだし仕方ない」と、いつもどこかで諦めていたからだと思う。それ以外に自分を守る方法が分からなかったのだ。自信は失せて将来に展望もなく、外食やコンビニ飯でどうにか食い繋いでいく孤独な生活だった。
ハルカトミユキの『Fairy Trash Tale』を聴いた。歌い出しの言葉に、ハッとなった。
気づいたのは、行きたい場所がないこと。気づいたのは、心からの願いがないこと。自分がずっと抱えていた虚無感を、ここまで浮き彫りにしてくれた曲は知らなかった。
毎朝始発電車に乗りながら、何度もこの曲を聴いた。救いを求めるような気持ちで聴いていた。うしろ向きな言葉のひとつひとつが、逆に自分を肯定してくれているようで心地よかったのだ。
あれから一度会社を休職し、そのあと別の部署へ異動して精神的にはいくらかマシになった。しかし今でもよく息が苦しくなったり、頭が回らなくなったり、時には後輩に怒られることもあるなど、ぐらぐらでみっともなくて不安の尽きない日々を過ごしている。
数少ない楽しみは、ライブに行くことだ。新型コロナウイルスの影響によって一時期ほとんどの娯楽が消滅してしまったものの、少しずつ好きなアーティストのライブが観られるようになったことは、本当にありがたい。
決して幅広く音楽に詳しいわけではないけれど、ハルカトミユキは僕の人生を大きく支えてくれた数少ないアーティストのひとつだ。ファンになってからまだあまり年数は経っていないけど、だからこそ、これからもたくさんライブに行って応援し続けたいと思う。
夢はない。大きな目標もない。熱意は完全に無くなった。それでも目先の楽しみを糧に、今日も華やぐ街で何とか生き延びている。